こんばんは!たなかあきらです。
ウェールズに伝わるケルト神話を、たなかあきら風にアレンジして、数回にわたってご紹介しています。
美しい妖精と口の堅い男
グウァン無事に家に着くことが出来た。
「ぱぱ、おかえりなさい~」
「遅かったわね」
「ああ、デヴィルといざこざがあったご婦人が倒れていてね。そのご婦人は何とか助かって良かったんだけど、疲れ果てていてね。村まで連れて帰っていたんだ」
「デヴィルですって? 冗談はよしてちょうだい。すぐ夕食の準備ができますからね」
実は、グウァンは美しい妻とかわいい息子たちに囲まれて幸せな生活を送っていた。
グウァンは妻アンと出会ったときのことを思い出していた。
そういえば俺もアンと契約を結んでいたなあ。
2人の出会いは美しい自然が広がるウェールズの湖だった。
付近で羊の放牧をしていたグウァンは、美しい娘が湖から現れ沐浴をしているのを目撃した。あまりの美しさにグウァンは魂を抜かれたかのように見とれてしまった。
この世のものとは思えない妖精のような美しさだ。
嫁さんにできたら何と幸せなことだろうか。
ふと、気が付くとグウァンはその娘の近くにまで歩み寄っていた。
「誰っ! 誰かいるの?」
グウァンは思わず答えてしまった。
「はい、すみません」
「失礼ね、あなた私のことをずっと見ていたのね」
「はい、すみません。ついあなたの美しさに見とれて心を奪われていました」
この世の人とは思えない美しさ。グウァンは魔法をかけられた様に、
湖から出てくる姿に身も心も奪われてしまった。
「あなたと結婚出来たらなんと嬉しいことだろうか」
大胆にもグウァンはそんな言葉を発してしまった・・・・
「ぼーっとしてないで、ご飯出来たわよ」
「おお、ごめんごめん。ちょっと疲れたようだ」
「早く子供たちと済ませて頂戴。今日はみんな大好きな羊と野菜のスープよ」
「やった~、僕何杯もおかわりするよ」
「うまい、うまい」
食事が終わり子供達とひとしきり遊んだあと、グウァンはうとうとし始めた。
「あなたと結婚出来たらなんと嬉しいことだろうか」
美しい女性は、突然の大胆な言葉に困惑したようであった。
「やっぱり、無理ですよね。あなたと僕では住む世界が違ってそうだし、こんなみすぼらしい僕とはつり合いも取れない。こんな事、言ってしまってすみません」
「忘れてください。さいなら」
グウァンは正気を取り戻し、くるりと向きを変えて一目散に立ち去ろうとした。
その時、普通の人なら予想だにしなかったことが起きた。
えっ!
グウァンは再びくるりと向きを変えた。
「わかったわ。ただし条件があるの」
再びグウァンは魔法をかけられた様に、妖精のような美しい姿に身も心も奪われた。上ずった声で聞き返した。
「条件?」
「ええ」
「今日ここで会ったこと、見たことは内緒にして頂戴」
「それと」
美しい女性はちょっと言いにくそうに続けた。
「それと、何があっても私の頬を3回以上叩かないで下さい。これが守れるなら、私はあなたのもとに嫁ぎます」
「わ、わかった。約束は守ろう」
グウァンは、口は固い男だった。
やがて2人の間には玉のような男の子が産まれたのであった。
グウァンは、口だけは固い男だった。決して秘密を話す人物ではなかった。
<<つづく >>
最後に
この物語は、ウェールズ西部に伝わる「Lady of the lake」という神話をもとに、たなかあきらが想像して書いたものです。
「Lady of the lake」というと、アーサー王伝説で、アーサー王がエクスカリバーを受けとった湖の妖精を思い出しますが、今回の話は別の物語でLlyn y Fan Fachという湖が舞台となっています。
ウェールズのケレディギオン地方にあるLlyn y Fan Fach湖
最後まで読んでくださり有難うございました。
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