(17.9.5更新)
こんにちは。ウェールズ歴史研究家、たなかあきらです。
イギリスのウェールズは、世界一お城の密度が高い地域で、世界遺産も数多くあります。その中で13世紀終わりに建設が始まったビューマリス城は、資金不足で未完成のまま現在に至っています。なぜ資金不足になってしまったのでしょうか?
お城の建設費の資金が不足するってことは、お城の建築にはやはり巨額のお金が必要なんでしょうね。というわけで、
・ヨーロッパのお城の建築費はどのくらい掛かるのか?
・日本のお城の建築費はどのくらいなのか?
人件費、予算などを考えてお城建設について考えてみました。
資金不足で建築途中の世界遺産、ビューマリス城
(Beaumaris ビューマリス城、筆者撮影)
簡単にビューマリス城の紹介をします。場所はイギリス・ウェールズ北部のアングルシー島の海沿いに面しており、上空から見ると美しいシンメトリーの形をしています。ビューマリス城は、13世紀の終わりにイングランド王エドワード1世が、ウェールズを征服した時に建築したお城の一つで、カナーヴォン城、コンウィ城、ハーレック城と共に世界遺産に登録されています。
ビューマリス城は1295年に建築が始まりましたが金不足になり、翌年に建設がストップしました。その理由は、スコットランドで反乱が起き、軍を派遣して鎮圧する必要がでたため、お城建築にお金を使うことができなくなったためです。
中世のお城建築はいくらかかったのか?
ビューマリス城の建築には週に2625人程度の石工や採石者や労働者が働いており、一人当たり270ポンドの人件費がかかったとされています。当時の270ポンドを現在の貨幣価値に関すると、日給約15000円程度になります。
この計算で、日給15000円で2625人が週休2日で1年働くと、約100億円の人件費がかかります。ビューマリス城は、工事中止までに11000ポンド(現在の価値で約80億)使ったとされており、概算はほぼあっていると思います。
イングランド王エドワード1世が同時期に建てたお城を見ますと、カナーヴォン城(22000ポンド、約160億円)、コンウィ城(15000ポンド、約110億円)、ハーレック城(8200ポンド、約60億円)の建設をしており、10年程でお城建設に400億円ほど使っていることになります。
お城の建築は、戦争でストップしたのですが、戦争にはどのくらいの費用が掛かったのでしょうか?
中世の戦争の費用はこんなにかかった
(Conwy コンウィ城、筆者撮影)
人件費だけを考えてみましょう。例えば、騎士の給料を月給240ペンス(日給12ペンスで20日労働。約72万円)と仮定します。1万人の軍隊を形成し1か月戦死者ゼロで戦うと、72億円の費用が掛かり、1年となると約860億円もの莫大な費用が掛かります。
この規模の戦争では、1~2か月程度の人件費でお城が建ってしまうほどの費用になります。戦争は短く効果的に終わらさなければ、財政が持ちませんね。
※13世紀当時の貨幣価値を現在に置き換えるために、1ペンス=3000円、1ポンド=240ペンス=72万円で換算しています。
参考:中世の物価
では、当時の国王が動かせた国家予算はどのくらいの額だったのでしょうか
お城や戦争の費用v.s.国家予算
同じ13世紀、エドワード3世の頃の王の収入は、3万ポンド~多くて9万ポンド(約200~650億円)程度と考えられます。また、同時期のフランスの国家予算が金2.5トン(約850億円、3.5g=12万円で換算)、16世紀のイギリスの国家予算が20万ポンド(約1400億円)程度の計算となります。
それを考えると、数百億円を要するお城の建設や戦争は、当時の国家予算を考えると非常に大きな出費となります。この予算で多額なお城をいくつも建築して、戦争にも出かけていれば予算不足になり、お城建設の中断も納得できます。
現在のイギリスの国家予算は2012年で84兆6500億円(日本は172兆円)と比べてみても、いかにお城建設や戦いにお金を使ってしまったかが分かります。
世界各国の国家予算規模ランキング(2012年)世界ランキング統計局
当時のエドワード一世はお城建築を乱発し、更にウェールズ、スコットランド、フランスとの戦争に明け暮れて大きな成果を上げたことから、英雄的な面を持っています。
しかし、イングランドの財政を破たんさせ、息子のエドワード二世に引き継いでしまった失政も同時に見えてきます。当時の給料、費用、予算を計算していますと、必要なお城だけ建築して、戦争は情報収集と戦略をしっかり立て、如何に短期決戦で勝利することが大切かが良くわかります。
日本のお城の建築費は?
日本のお城の建設費用はどのくらいだったのでしょうか?
大林組が真面目に豊臣秀吉の時代の大阪城の建設費用を見積もった例があります。大林組の試算によりますと、約800億円ほどの費用が掛かるそうです。木造建築+瓦を用いた日本のお城の方が、石造りのイギリスのお城(要塞)より、費用が掛かるようです。
豊臣秀吉もお城建設にお金を使い過ぎ、財政破たんしたのではと推測されますが、実態はどうだったのでしょうか。
①年貢収入:220万石⇒1100億円 (1石(150㎏)=5万円で換算)
②金山・銀山など商売収入:100万両⇒1000億円 (一両=10万円で換算)
と、豊臣家は合計2000億円以上の年間収入があったと想定できます。
豊臣秀吉は当時のイギリスやフランスの国家予算を超える莫大な富を持っており、800億円もかかる大阪城を建設できた理由が分かりますね。
ちなみに江戸城の天守閣を復元しようとすると約350億円、実際に復元した掛川城の天守閣は11億円の予算だったそうです。
最後に
お城の建設は今の価値に換算すると何百億円と莫大な費用が掛かり、そう簡単には建設できません。その点を頭に入れつつ、大名や王たちの権力、善政・失政を考えてみるのも興味深いと思います。
イギリスの英雄アーサー王は常に戦争をしていました。ローマ皇帝と戦った時などは、3~4万の軍を引連れ、イギリスからフランスへ乗り込んで戦っています。一体どれだけの費用を費やしたのだろう?と思いますが、戦争に勝利すれば略奪などなんでもありで費用以上の利益があったのだと思います。
また詳しくはそのうちに語ろうと思います。
※エドワード1世が建築したお城群
※ウェールズの美しいお城たち
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最後まで読んでくださり有難うございました。
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