(18.7.27更新)
こんにちは。ウェールズ歴史研究家、たなかあきらです。今回は、イングランド王室の後継争いを描いた映画、「冬のライオン」について、歴史的な背景をお話します。
名作映画「冬のライオン」
映画「冬のライオン」(The Lion in Winter)、は1968年にイギリスで制作されたイングランド王室の争いを描いた映画で、アカデミー賞7部門にノミネートされ、主演女優賞、脚色賞、作曲賞の3部門受賞した名作です。
2003年にアメリカでテレビ映画としてリメイクされ、ゴールデングローブ賞も受賞しています。
「冬のライオンは」12世紀終わり頃のイングランド王であるヘンリー2世を中心に描かれています。その歴史的背景が興味深いのです。
歴史を知らずに映画を観ると、理解できない部分がでてきますが、歴史の背景を知っておくと、ああこういう理由でこんな行動をとったんだなと理解でき、楽しさも増すと思いますね。
「冬のライオン」をより楽しんで頂けるように、ヘンリー2世、王妃、息子たちの人間関係の概要をお話いたします。
はい、楽しみです。
「冬のライオン」の概要
まずネタバレしない程度に、映画の概要をご紹介いたします。1183年のクリスマス、フランスのアキテーヌにあるシノン城が舞台となっています。アキテーヌとは当時フランスの西部に位置する国です。(地図中では黒の点々の部分)
「冬のライオン」ではイングランド国王ヘンリー2世と王妃エレノア、二人の間の3人の息子たちとの後継争いと愛憎を描いています。主な登場人物と配役をご紹介します。。
・ヘンリー (イングランド王ヘンリー2世):ピーター・オトゥール
・エレノア(イングランド王妃エレアノール、前夫はフランス王ルイ7世):キャサリン・ヘプバーン
<息子たち>
・リチャード(後のイングランド王リチャード1世):アンソニー・ホプキンス
・ジェフリー(ブルターニュ公ジョフロワ2世): ジョン・キャッスル
・ジョン(後のイングランド王ジョン):ナイジェル・テリー
<その他>
・アリース(フランス王ルイ7世の娘):ジェーン・メロウ
・フィリップ(フランス王フィリップ2世、アリースの異母弟):ティモシー・ダルトン
こちらが、登場人物の家系図になります。丸印が映画の登場人物です。(アリースはアレーと書かれています)
なるほど。登場人物は皆、親戚なんですね。
映画を見ているとヘンリー2世とエレノア夫婦の圧倒される迫真の論争と、その合間に見える人間味を深く感じる愛憎に、グッと映画の中に引き込まれていきます。この二人の対決だけでも大いに見る価値があると思います。
ヘンリー2世とエレノアは心の底では昔ひかれあった心を残しているものの、ヘンリー2世は若いアリースを愛してエレノアと別れようとします。
そんな中、ヘンリー2世の3人の息子たちは、我こそが次期王に相応しいとヘンリー2世や王妃に詰め寄り言い争いになります。そこに愛人アリースやフランスのフィリップが絡み、様々な策略が張り巡らされていきます。
イングランド王室の家庭が崩壊していく様子が感じ取れていきます。
ヘンリーの妻、エレノア
「冬のライオン」の歴史的背景
冬のライオンの複雑な歴史的な背景を話そう。イングランド王室の話だけど、家系図にあるように、当時のイングランド王はフランス系であり、フランスと深く関わりがあったのです。
ヘンリー2世もエレアノールもフランス人であった
ヘンリー2世の父はフランスのアンジュー伯ジョフロワで、母はイングランド王ウィリアム1世の孫マティルダで、実はウィリアム1世もフランス系のノルマン人なんだ。だから、イングランドも当時は、公用語がフランス語だったんだ。
一方、ヘンリー2世の妻エレアノール・ダキテーヌも、フランスのアキテーヌ公ギョーム十世で広い領土を所有しており、エレアノールが領土を受け継いでいたんだ。(アンジューとアキテーヌの領土は先ほどの地図をご覧ください)
なるほど。ヘンリーも妻エレアノールもフランスに領土を持っていて、その領土を合わせて、さらにイングランドも一緒にしたので、すごい広い領土になったんだ!
フランス王と離別してヘンリーと結婚
エレアノールは当初、フランス王ルイ七世と結婚し15年の結婚生活を送っていたんだよ。しかし、信仰心強く学者的なルイ7世に対し、自由奔放な恋愛をする家系で育ったエレアノール。二人の間も陰りが見え始め、男の子も生まれなかったことからルイ7世は後継者問題にも悩み、ついに結婚は無効だったとして離別させられたんだ。
そこに現れたのが、エレアノールより11歳年下で18歳になる隣国アンジュー伯のヘンリーだったんだ。ヘンリーは、太い腕に厚い胸板、広い肩幅と、がっしりとした大柄な体格で、燃える弾丸のようにらんらんと輝く眼を持っており、野性的で激しい気性だったんだ。
婦人を魅了する男らしさだけでなく、ヘンリーは文人の誉れ高いアンジュー家だけあって、高い教養と知性も兼ね備えていたんだ。意気投合した二人は結婚し、エレアノールのアキテーヌ国とヘンリーのアンジュー国は統合され、広大な領土となったんだ。
ヘンリーはイングランド王になる
ヘンリーは当時のイングランド王スティーヴンとその息子ユースタスと争っていたんだ。ヘンリーはフランスのアンジュー伯だけでなく、イングランド王ウィリアム1世の曾孫、ヘンリー1世の孫でありイングランド王を後継できる血筋でもあったんだ。
ヘンリー軍はイングランドに上陸してスティーヴン軍と戦ったんだ。ヘンリーは圧倒的な強さでスティーヴンに勝利し、次期イングランド王はヘンリーということで和解に調印したんだ。
その後、スティーヴンとユースタスは病気や食中毒で亡くなり、アンジュー伯ヘンリーは1154年12月19日にイングランド王ヘンリー2世として戴冠したんだよ。
結婚生活にも暗雲が
ヘンリー2世と王妃となったエレアノールは当初は幸せな結婚生活を続け、10年間に5男3女をもうけたんだ。長男、次男は早世しましたんだけど、三男はリチャード(後のイングランド王リチャード1世)、四男 ジェフリー、末っ子のジョン(後のイングランド王ジョン)と後継者にも恵まれたんだ。
しかし、ジョンを懐妊したころから、ヘンリー2世はロザムンドという名の若い女性を愛するようになり、年上のエレアノールを疎むようになったんだ。深く傷ついたエレアノールは子供たちを連れてイングランドを去り、自分の領土であるアキテーヌに移り住んでしまったんだ。
エレアノールの反乱
エレノアールはフランス王ルイ7世をバックに、息子たち(次男若ヘンリー、三男リチャード、四男ジェフリー)を父に造反させて、1173年にヘンリー2世との間に戦争を起こしたんだ。
しかし、ヘンリー2世の勝利に終わり、エレノアールはイングランドに幽閉されてしまったんだ。この幽閉生活は15年にも及び、その状況を映画にしたのが、「冬のライオン」なんだよ。
ヘンリー2世の息子たち
三男リチャード(後のリチャード1世)
三男の リチャードは、母エレノアールから最も愛されていたんだ。映画には出ていない次男の若ヘンリーが急逝後、父ヘンリー2世の後継者となったんだ。しかし、ヘンリー2世からは、後継者になる代わりに、リチャードが所有していたアキテーヌを譲渡するように命じられ、拒否し対抗するんだ。
またリチャードは、婚約していたフィリップ2世の異母姉アリースと結婚しようとすると、アリースを愛人としていたヘンリー2世は拒否し、一人の女性をめぐって親子は敵対するんだ。兄弟のように育った、フランスのフィリップ2世とはとても仲が良かったようです。
※ヘンリー2世の死後にリチャードはリチャード1世としてイングランド王となり、十字軍遠征では、大活躍をし獅子王と呼ばれました。リチャードはアリースとは結局結婚せず、リチャードはナヴァール王女と結婚しました。しかし、リチャード1世は男色が走り、子供はできませんでした。
四男ジェフリー
ジェフリーは、兄弟と共に父に反乱を起こし、また若ヘンリーと共にリチャードとも争ったんだ(これを考えると、映画の中ではほぼ皆と不仲になっていたようです)。イングランド王の継承者にはなっておらずブルターニュ公となるんだけど、1186年の馬上槍試合で負傷し死亡したんだ。
五男ジョン
末っ子のジョンは父ヘンリー2世から寵愛を受け、父は多くの領土をジョンに継がせようとするんだ。このため、兄弟達からは大きな反感を買い、ヘンリー2世との不仲の原因となったんだ。後に兄リチャード1世の死後にイングランド王となるんだけど、欠地王や失地王のあだ名がつき、悪王として名高いんだ。
ヘンリー2世が兄弟達に領土を分配した際に、幼年のジョンに領土を与えなかったことから欠地王と呼ばれ、またイングランド王になってから両親のフランスにある領土の大半を失ったため失地王とも呼ばれてるんだよ。
冬のライオンには出ていない次男若ヘンリー
映画には出てないけど、次男の若ヘンリーはヘンリー2世の後継で共同君主となっていたんだ。しかし、ヘンリー2世から実権は与えられず、またヘンリー2世がジョンを溺愛したことから、若ヘンリーは母や弟たちと父へ反乱を起こしたんだ。
その後、ヘンリー2世と和解するんだけど不仲は続き、更にリチャードとも関係は悪くなり、若ヘンリーは今度はジェフリーと組んでリチャードと交戦したんだ。しかし1183年に熱病で亡くなってしまうんだ。
後にヨーロッパの祖母となったエレアノール
エレアノールはヘンリー2世が亡くなり幽閉生活から解放されたときには67歳になっていたんだ。しかし彼女の健康も気力も衰えはなくリチャード1世を支えてアンジュー王国の中枢に君臨したんだよ。
・リチャード1世が十字軍遠征に出かけると婚約者の手を引いてシチリアに出かけた
・71歳の時にリチャード1世がオーストラリアで拉致された時には多額の身代金を携え冬のアルプス越えを敢行し釈放に成功
・78歳の時にはピレネー山脈に挑み孫娘のカスティリア王女のブランカを連れて帰りルイ8世のもとに娶せた
と年齢を感じさせない活動を続けたんだ。
エレアノールの子孫はイングランド王家だけでなく、ルイ8世とブランカを通してフランス王家にも広がってヨーロッパ中に根を張り、ヨーロッパの祖母と呼ばれるようになったんだ。
冬のライオン:最後に
「冬のライオン」の背景には、イングランド王室のとても複雑な人間関係がありますね。この記事を読んで、歴史的な背景を理解してから映画を観ていただけると、より映画を楽しんで頂けると思います。この記事が「冬のライオン」を観る上で、また歴史を知りたい方のお役に立てれば幸いです。
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