こんにちは。たなかあきらです。カズオ・イシグロの「忘れられた巨人」を読んだことはあるでしょうか?
・難解でよくわからない
・時代背景が分からないし、登場人物のつながりとかもぴんと来ない
という方はいらっしゃいませんか?
歴史や時代背景を知っていたら、もっと楽に読めて楽しめたんじゃないかな、と思います。
「忘れた巨人」を読んで、あまりピンとこなかった人向けに、当時の時代背景について、忘れらてた巨人とは何か?解説をします。
時代背景:サクソンの到来
紀元5世紀の中ほど、ブリタニアではローマ帝国の支配が終わり、ブリトン人たちが自らブリタニアを治めていました。
ブリタニアに住むブリトン人の首長は、ヴォーティガンという人物でした。しかし、ヴォーティガン王は私欲を肥やし、世は乱れていました。
そこに目をつけたのが、ヨーロッパ大陸に住んでいたサクソン人でした。
当初サクソン人たちはヴォーティガンの傭兵として雇われ、ブリタニアの警備についていました。
ある時、サクソン人たちはブリタニアの土を奪おうと、ヴォーティガンを裏切り、隙をついて攻撃を仕掛けてきました。
戦い慣れたサクソンに、ヴォーティガンは為す術なく、東岸のケントの地を明け渡しました。
そこから、ブリトン人とサクソン人の戦いが始まりました。
次々と大陸から渡って勢力を広げようとするサクソン人たちを防ごうと、ブリタニア人たちは必死の抵抗を続けたのです。
👉参考記事
映画キング・アーサー、悪王のヴォーティガンは何者だ、実在人物か?
ブリタニアの赤竜伝説(レッドドラゴン)
ブリトン人たちの間には、巨大竜の伝説もありました。
ブリタニアのシンボルである赤い竜の伝説です。赤い竜(レッドドラゴン)は、ブリトン人の末裔が住むウェールズの国旗に用いられています。
👉参考:イギリス国旗にないウェールズ国旗 レッドドラゴンの深い歴史
当時ブリタニアを治めていたヴォーティガンは、サクソンの攻撃に備えるためだけでなく、国内の反抗勢力も抑えるため、巨大な要塞を建てようとしました。
でも、何度建ようとしても要塞は、直ぐに崩れてしまいました。
おかしいな、何が原因だろうか?と、ヴォーティガンは、当時はまだ少年であった魔法使いマーリンに調べさせました。
マーリン少年に言われるままに、要塞の地面を掘ったところ、地下で赤竜と白竜が戦っていました。
マーリン少年は言いました。「赤竜は私たちブリトン人で、白竜はサクソン人を指しているんだよ。白竜が優勢だねえ」
ブリトン人を示す赤竜が勢いづいて、白竜を打ち負かすヒーローの出現が必要でしたた。
👉参考:映画キング・アーサー、悪王のヴォーティガンは何者だ、実在人物か?
英雄アーサーの出現
5世紀の終わりごろ、ブリタニアでは伝説の戦いが続いていました。
ブリトン人たちを率いていたのは、伝説のアーサー王と円卓の騎士たちでした。
アーサー王たちはアングロ・サクソン人との戦いに明け暮れ、歴史書によると、12の戦いに連続勝利したと記されています。
聖剣エクスカリバーを振りかざし、押し寄せるサクソン人をバタバタ倒していくアーサー王。
12の戦いの最後と言われるバドン山の戦いで、アーサー王は1人で940人とも960人とも言われるサクソン人を倒し大勝利を得ました。
ブリトン人たちはサクソン人たちを平定し、戦いに終止符を打ったのでした。
👉参考記事
アーサー王が活躍した「ベイドン山の戦い」の場所 実在の候補地を集めました
ブリトン人の社会、アーサー時代の終わり
マーリンが言う、ブリトン人の赤竜がサクソン人の白竜に勝ちました。
迫り来るサクソン人を食い止めた英雄の出現により、ブリタニアにブリトン人の社会が戻りました。
しかし、栄光に包まれたアーサー王もモルドレッドの反逆で相討ちとなり、世を去りアヴァロンに流されました。
アーサー王と円卓の騎士たちの時代が終わると、次第に抑えられていたサクソン人たちが息を吹き返し、再びブリタニアを侵略しました。
サクソン人たちの勢いは止まらず、ブリトン人たちは北や西に追いやられ、2世紀ほどの間にグレートブリテン島の大部分の領土は、サクソン人たちの支配下になりました。
こうしてサクソン人たちは(アングロ・サクソン人)、イングランドを作ったのでした。
ブリトン人たちが追いやられた地は、後に北はスコットランド、西はウェールズとなりました。
👉参考:<改訂版>第2章 ローマが去りアングロ・サクソンとウェールズ王室がブリタニアにやってきた
忘れられた巨人とは
「忘れられた巨人」とは誰の事でしょうか?
僕は2案が考えられると思います。
1案目:「忘れられた巨人」とはサクソン人たちの事である。サクソン人たちの復讐心である。
ブリタニアに侵略してブリトン人に襲い掛かったサクソン人たちを、壊滅させたアーサー王はブリタニアの平和を長く続けるようにしたかったと思います。
このため、敗れたサクソン人達をとむらい、残った人々もブリトン人と一緒に暮らせる様に、取りはからいました。
さらにアーサー王は、ブリトン人やアーサー王に対するサクソン人の復讐の心を忘れさせようとした、と考えられます。
マーリンの魔法を利用し、生き延びた巨大な赤竜の息に魔法をかけ、息がつくる霧に包まれた者は過去の記憶を忘れるようにした、と思います。
しかし、アーサー王たちの大量殺りに打ち負かされ、領土を奪い返されたサクソン人たちの恨みは、簡単に払拭できませんでした。
赤竜の息の魔法で表向きには忘れてしまった復讐の心は、潜在的な記憶として受け継がれていたと考えます。
そしてアーサー王が世を去り、マーリンの魔法がかけられていた赤竜の息の効力も弱まってきました。
そして、赤竜が退治されて魔法の霧が晴れてしまうと、サクソン人たちは忘れていた記憶の奥深くにある復讐心を思い出したのです。
「忘れられた巨人」とはサクソン人たちの事であると思います。かつてブリタニアを奪い取った過去の事実、さらに忘れていたアーサー王への復讐心を思い出し、再び巨人のように激しくブリタニアに襲い掛かったのだと思うのです。
つまり「忘れられたけれど再び戻ってきた巨人」ではないでしょうか。
2案目:「忘れられた巨人」とはアーサー王の事である。
サクソン人たちを打ちのめし、ブリトン人たちを救った英雄、アーサー王。
円卓の騎士たちとともに、ブリタニアを平定し、巨人と言っても過言でない勢力を持ちました。
しかし、時代が流れるとともに、また赤竜の霧に包まれ、アーサー王の活躍や存在もブリトン人たちの心から忘れ去られて行ったのではないか、と思います。
しかし、長い歴史を見ると、ブリトン人のピンチになった時にきっと復活し、救世主とし助けに来てくれるはず、と信じられている伝説があります。
アーサー王の存在は歴史書にも殆ど書かれておらず、実在したかどうかも不明になっていますが、今日まで英雄として語り継がれています。
「忘れられた巨人」とはアーサー王かもしれません。アーサー王は「存在は忘れられているけれど、忘れられない巨人」では無いでしょうか。
追伸:アクスルとは何者?
ところで、アクスルという老人は何者でしょうか?
アクスルと言う人物は円卓の騎士たちの中にはいないはずです。しかし、アーサー王と円卓の騎士についてとても詳しい様子です。
アクスルと言う老人こそ、アヴァロンに流されたアーサー王が、再びこの世に戻ってきた姿では無いだろうか、と思いました。
・アーサー王はブリトン人を守る為に、サクソン人との戦いに明け暮れた。王としての行動を取り過ぎ、妻グィネヴィアには振り向くことをしなかった
・このため、グィネヴィアの心はアーサー王から離れランスロット卿のもとへ行ってしまった。このことが、円卓の騎士を崩壊させて、アーサー王自身も命を落としてしまった
アーサー王は映画「エクスカリバー」で、こう言っていました。
「いつの日か、私がただの人間として暮らせる日が来たら、そなたと再び手を取り合って、夫婦であることを確かめ合いたい。それが私の夢だ」
アクスル老人は短い間ではあったけれど、過去を忘れて妻と楽しい旅をすることが出来ました。そして、再びアヴァロンえ帰って行ったのではないかと思います。
アーサー王の夢がかなったのではないか、と思います。
👉アーサー王に関する参考記事と本
コメント