こんばんは!たなかあきらです。
ウェールズに伝わるケルト神話を三回にわたってご紹介いたします。
悪魔との契約
「昨晩雨が大量に降ったからな。いつもより水かさが多いわ」
ワォーン!犬の遠吠えが聞こえる。
「もたもたしていては日が暮れてしまう。急いで一気に川を渡るわよ!」
「それ!」
ざばーん
「ねえ! 大丈夫かい?」
「う・・・、大切な牛ちゃんが深みにはまって動かない」
「どうしましょ。このまま放っておくわけにもいかないし」
モおぉぉ~
川の水かさを増し、流れは激しくなっていく。
「こりゃ、だめだわ。神様、助けてください!」
「神様でも、悪魔でもいい、どうか助けてください!」
昔々のことでした。まだまだ人の世界と闇の世界があいまいで、行き来することもあったような神話の時代。ウェールズ西部の森の中で牛が深みにはまり立ち往生していた。
「神様でも、悪魔でもいい、どうか助けてください!」
「うぬ、私を呼んだかね」
「あっ、悪魔」
「悪魔とは失礼な。デヴィル様と呼びなさい」
「デヴィル様、お助けを」
しまった、悪魔を召喚してしまった。農婦は少々後悔した。
「助けてやってもいいが、悪魔業も忙しいし助けるにもコストがかかるんだ。ただでは助けられぬぞ」
なんとビジネス的な悪魔だ。
「何が欲しいの? お金?」
デヴィルは懐から一枚の紙を取り出した。
「ここに契約書がある。そこにサインしてくれたら、助けてやるぞ」
なになに、貴殿たちを助けるために魔力を使って川に橋をかけよう。それと引き変えに魂をいただこう、だと。農婦は悩んだ。
このまま立ち往生していては、牛の命はないだろう。
助かったとしても誰かの命は奪われてしまい、同じだ。
しかし、牛をこのまま放っておくわけにはいかない。
「分かったわ。サインするわ」
「交渉成立だな」
「アマダンゴス ボント!」
デヴィルが呪文を唱えたとたん、煙の中から橋がナンシーの目の前に現れた。
モオォー
農婦は牛を橋の上に押し上げて、自分も橋に上り窮地を脱することが出来た。向こう岸に渡る寸前まで来て、農婦はデヴィルに尋ねた。
「で、誰の魂がいるんだい?」
「最初に橋を渡り切ったお前の魂だ!」
私には夫と子供たちがいる。私の魂が取られてしまったら、残された家族はどうなるんだ。魂を取られるわけにはいかない。
牛も自分たちにとっては家族同然、魂を渡すわけにはいかない。
どうしよう? もう契約してしまった。
婦人は途方に暮れた。
幸い、僅かに橋を渡り切っていない。婦人はとっさにポケットの中に入っていたパンの塊を橋の向こう側に向かってポンと投げた。
何をする、ワぁぁあーーーーー
デヴィルはパンの中に吸い込まれたかに見えた。
ワンワン! どこからともなく犬が走ってきて、そのパンをパクりと食べて森の中に消えていった。
その後、デヴィルによってかけられた橋は残っていたが、二度とデヴィルをこの森で見た人はいないという。その橋を渡った者はいるのかどうかわからない。
現在その川には三本の橋が架かっていて、二本は人間が書けた橋、古びた一本はそのデヴィルが掛けたものだという。
あなたはその橋を渡ってみる勇気はありますか?
デヴィルズ・ブリッジ
このショートストーリーはウェールズのケレディギオン地方に伝わる「デヴィルズ・ブリッジ」という12世紀ごろの伝説をもとに、たなかあきらが書いたものです。
写真は実際の橋です。
最後まで読んでくださり有難うございました。
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