シェイクスピアの「4大悲劇」の1つに、「ハムレット」があります。
主人公ハムレットが父の亡霊に会い、復讐を誓って叔父を殺しますが、一家みな亡くなってしまう悲劇ストーリーです。
シェイクスピアのハムレットの原作となったのは、デンマークの伝説で、アムレスという人物が主人公です。
このデンマークの伝説は、どのようなストーリーなのでしょうか?
「ハムレット」のような悲劇なのでしょうか?
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- 「ハムレット」のオリジナル版とは?
- シェイクスピア版 「ハムレット」のあらすじ
- (前半は類似)原作の「アムレート」のあらずじ、ハムレットと比較
- (後半は異なる)原作の「アムレート」のあらずじ、ハムレットと比較
- アムレートの話の続き(復讐の復讐)
- まとめ
「ハムレット」のオリジナル版とは?
ハムレットの元となったデンマークの伝説は、12世紀に歴史家サクソ・グラマティクスによって書かれました。
※デンマークの歴史に関する「デンマーク人の事績(デーン人の事績)」(Deeds of the Danes、ゲスタ・ダノールム、Gesta Danorum)
この中で、アムレート(Amleth)と呼ばれる王子が登場し、このアムレート王子がハムレット王子のモデル人物です。
アムレートの(Amleth)のスペルの、最後のhを最初に持ってきて並べ替えると、Hamletとなります。
シェイクスピア版 「ハムレット」のあらすじ
まず、シェイクスピアの「ハムレット」のあらすじを簡単に説明します。
叔父への復讐を決断
ハムレットの父であるデンマーク王が亡くなり、叔父のクローディアスが王となり、ハムレットの母である王妃と結婚しました。
ハムレットの前に父の亡霊が現れ、クローディアスに毒殺されたと語り、ハムレットは復讐を決意しました。
クローディアスの手から逃れるため、ハムレットは狂気を装って復讐心を隠し、恋人オフィーリアに「尼寺へ行け」などと言って周りを混乱させようとします。
スパイとして隠れていたオフィーリアの父ポローニアスを刺殺します。
イングランドへ送還
クローディアスはイングランド王にハムレットを処刑してもらう目的で、従者と共にハムレットをイングランドに送ります。しかし、依頼手紙に気づきハムレットはデンマークに戻りました。
復讐を果たす結末(悲劇)
恋人ハムレットは気が狂い、父をも殺された心痛のオフィーリアは発狂して川で水死してしまいます。激怒した兄のレアティーズとハムレットとに剣術試合が、クローディアスの発案で仕組まれました。
毒入りの剣と葡萄酒を用いてハムレットを殺すつもりでしたが、剣はすり替わりレアティーズもハムレットも王夫妻もすべて死んでしまいます。
(前半は類似)原作の「アムレート」のあらずじ、ハムレットと比較
登場人物の比較
登場人物の名前を置き換えると、
前半のストーリーは、デンマーク人の事績の「アムレート」と「ハムレット」はほとんど同じです。
シェイクスピアの「ハムレット」 | サクソの「デンマーク人の事績」 |
デンマーク王子 ハムレット | アムレート |
ハムレットの父 ハムレット | ホルウェンディル |
ハムレットの母 ガートルード | グルサ(ローリクの娘) |
ハムレットの叔父 クローディアス王 | フェンギ |
国王の顧問官 ポローニアス | 名無しの盗聴者 |
ポローニアスの娘 オフィーリア | 名無しの美人 |
王の家臣 ローゼンクランツ、ギルデンスターン | 名無しの家臣 |
アムレート、叔父への復讐を決断
アムレートは、ユトランド半島のゲルヴェンディル (Gervendill) の子ホルヴェンディル(Horvendill) と、デンマーク王ローリク(Rørik Slyngebond) の娘ゲルータ(Gerutha) との間に生まれました。
ユトランド半島を治めるゲルヴェンディルは、2人の息子、ホルヴェンディルとフェングに領土を後継させました。
ホルヴェンディルは、ノルウェー王コル(Koll)を殺しヴァイキングとして航海から戻った後、デンマークのローリク王の娘ゲルサ(Gerutha)と結婚しました。
そして、2人の間にはアムレートが産まれました。しかし、弟フェングは兄ホルヴェンディルを妬んで暗殺して王の座を奪い、ゲルサを説き伏せて妻としました。
アムレートは、叔父フェングの危害から逃れるために、気が狂ったことを装いました。フェングはアムレートを疑い、様々なトラップを仕掛けて、気が狂った真相を明らかにしようとしました。
・若い女性(アムレートの乳姉妹)を使って、アムレートを引っ掛けようとしました。しかし、アムレートの気が狂った振る舞いで切り抜けました。
・アムレートは、母親の部屋で隠れてアムレートと母親の話を盗聴していた男を刺殺し、痕跡を消し去りました。
フェング王はアムレートの狂気は、装っているものと確信しました。
アムレート、イングランドへ送還
そこで、フェング王はアムレートを2人の従者と共にイングランドへ送りました。
従者には、イングランド王へアムレートを殺すように書かれた手紙を持たせました。
アムレートは木板に書かれたその手紙の狙いを推測し、
2人の従者を殺すことと、イングランド王の娘とアムレートとの結婚の趣旨に、こっそりとメッセージを入れ替えました。
(後半は異なる)原作の「アムレート」のあらずじ、ハムレットと比較
サクソ・グラマティクス(デンマーク人の事績の作者)
シェイクスピアの「ハムレット」の結末は、ハムレットは叔父を殺し復讐を成し遂げますが、叔父だけでなくハムレット、母、一家みな亡くなってしまいます。このため4大悲劇の1つとなっています。
サクソのデンマーク人の事績の「アムレット」がイングランドへ贈られる場面、復讐を成し遂げる場面は、ハムレットとは大きく異なっています。
アムレート、イングランドへ送還(後半)
アムレートはイングランドに到着し、すり替えた手紙の通りにイングランド王の娘と結婚しました。そして、アムレートはその年の末に、単身でデンマークに戻りました。
※ハムレットはイングランドに行かずデンマークに引き返しますが、アムレートはイングランドに到着し王女と結婚してデンマークに戻ります。
アムレート、復讐を果たす結末
アムレートは、彼の死を祝う葬儀の晩餐会に間に合うように到着しました。
晩餐会の間、アムレートは宮廷人たちにワインを浴びせるように飲ませ、酔い潰れている間にアムレートは広間にある毛織りの壁掛けを引き剥がして彼らの上にかけて縛り、宮殿に火を放ちました。
そして、フェング王の寝室へ行き、寝台の上にかかっていた王の剣を自分の剣と取り換えました。
アムレートが取り替えた剣は抜くことが出来ず、フェングは剣を取って戦おうとしたものの、抜くアムレートはフェング王を刺殺し、復讐を果たしました。
そしてアムレートは、人々の前で事の経緯を長い時間かけて説明しました。
そして人々はアムレートをデンマーク王として宣言しました。
※ハムレットでは復讐を果たすものの、全員亡くなりますが、アムレートは復讐を果たしてデンマーク王になると言う、この時点まではハッピーエンドです。
アムレートの話の続き(復讐の復讐)
アムレートのストーリー(デンマーク人の事績)は、ハムレットには無い続きの話があります。復讐の先に、また復讐が続きました。
アムレート、復讐の復讐の結末
アムレートは妻のためにイングランドに戻りました。しかし、義父のイングランド王はフェング王と、「どちらかが殺された場合、復讐をする」という約束をお互い交わしていました。
イングランド王は、フェング王との誓いを喜ばしく思ってはいませんでしたが、復讐の約束を実行することにしました。
そこでイングランド王は、スコットランド女王ヘルムトルーダの求婚者の代理としてアムレートを送り込みました。
ヘルムトルーダはこれまで全ての求婚者を殺した恐ろしい女王でした。
しかし、ペルムトルーダはアムレートと恋に落ちてしまいました。アムレートは最初の妻のいるイングランドに戻ります。彼女は復讐よりもまだアムレートの愛の方が勝っており、イングランド王はアムレートに復讐を意図していることを伝えました。
そしてアムレートとイングランド王の戦いが起きました。
アムレートは、死んだ兵士を前もって配置する仕掛けを作っており、敵のイングランド軍をひどく怖がらせて、戦いに勝利しました。
アムレート、最後の戦い
アムレートは2人の妻を連れてデンマークのユトランドの地に帰国しました。
しかし、そこに待っていたのは憎しみに満ちた、ローリク王の後継者、ヴィグレークでした。ヴィグレークはアムレートの母から財産を奪うなど無法な振る舞いをしていました。
アムレートはヴィグレークと戦いましたが、命を落としました。
アムレートの2人目の妻ヘルムトルーダは、アムレートと一緒に死ぬと約束しましたが、勝利者ヴィグレークと結婚しました。
作者のサクソは、アムレートはユトランドの地に埋葬され、その場所はアムレートの名前に因んでいると述べています。
まとめ
サクソのオリジナル版「デンマークの事績」のアムレートのストーリーと、シェークスピアの「ハムレット」は共通点と相違点が見られます。主な共通点は以下が挙げられます。
・叔父が主人公の父を殺害して王の座を奪い、父の妻(主人公の母)と結婚した
・叔父の手から逃れるために、若い主人公は狂気を装った
・主人公はデンマークに戻り、叔父を殺し復讐を成し遂げた
主な相違点は下記が挙げられます。
・ハムレットはイングランドに上陸しなかったが、アムレートはイングランドに上陸して王女と結婚した
・ハムレットは復讐を成し遂げるが一家は亡くなる悲劇となったが、アムレートは復讐を成し遂げ王となった
・アムレートは話の続きがあり、イングランド王のアムレートへの復讐、アムレートとデンマーク王との戦いの場面がある
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👉サクソ・グラマティクスによる「ハムレット」のオリジナル版
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