こんにちは。ウェールズ歴史研究家、たなかあきらです。ウェールズ中世の歴史をもとにした、創作歴史ストーリー「新たたかうカムリ戦士」、今回は第12話をお届けいたします。
※前話
窮地の予感
南国のモーガンと戦うため、同盟国デハイバースの要請により、援軍を引き連れて参戦したイエウヴであったが、突如現れた強敵に惨敗してしまった。
デハイバース軍を率いたエイニオンは強敵イングランド軍に捕らえられたが、イエウヴは敗北と見るや否や、戦場を放棄し逃げ帰ってきたのであった。
イエウヴ、もう帰ってきたのか。戦いは勝ったのか?
兄貴ぃ・・・
どうなんだ。エイニオン殿に協力してきたのか。
実は、戦いに負けちゃったんですよぅ。最初はうまく行ったのにぃ。略奪できた戦利品もこんだけ。もう俺はいやだよう。
戦いに負けたって、モーガンの奴はそんなに強かったのか。エイニオン殿とお前の連合軍でもかなわなかったのか?
実は、兄貴ぃ。イングランド軍がやってきて・・・エドガー王ですよぅ・・・
なにっ、エドガー王がイングランド軍を率いて、モーガン王に加担し、エイニオン殿は連れ去れただと。イエウヴ、お前はエイニオン殿との同盟がありながら、助けずに途中で放棄して帰ってきたのか?
イングランド軍につかまっちゃあ、略奪品も終わりだよう。だから、逃げ帰ったんすよ。
うむむむ。それでは、デハイバースのエイニオン殿にもオウァイン王にも顔が立たないな。それに、お前がコソコソ逃げ帰ったと、エドガー王が知ったら、きっとイングランド軍は、我がグウィネズ国にも責任を問うて圧力をかけてくるに違いない。その時はどう言い逃れをするのだ?
・・・
んんん、頭が痛いな。イングランド軍が攻めてきたら、我が国では歯が立たないだろう。デハイバース国は推測するに、エイニオン殿を人質にしてイングランド軍に傘下に入るよう脅されてるのだろう。
戦うしかないよう。
うむむむ。ところで、イエウヴ。お前、本当にマレド殿がどこに行ったか知らないのか。オウァイン殿から、マレド殿がまだ帰らないと連絡があったぞ。マレド殿に最後にあったのは、イエウヴ、お前だろう。
俺は、し、しらないよぅ・・・
命の恩人あらわる
うううっ、僕はいつまで閉じ込められているんだろう。一生、牢に入れられたまま人生を終わらないといけないのか。ううううっ。
<何? だれかいるの?>
だ、だれ?
<あっ、やっぱり。あなた人ね。何で、こんな牢で泣いているの?>
僕は、イエウヴに捕まっちゃったみたいだ。
イエウヴですって。あんな奴、大嫌いよ。私たち庶民から、家も財産も取れるものはふんだくって。行くところがあれば、こんな国はやく脱出して、イングランドにでも住みたいわ。
僕はマレドっていうんだ。君こそどうして、僕をみつけたの?
私はメアリって言うの。たまたま近くを通りがかったら、人がいないところで音がしたもんですから、幽霊じゃないかって、恐る恐る見に来たのよ。もしかして、あなた、楽器を演奏するの?
そう。こんなバラバラだよ。イエウヴに壊されちゃったんだ。ハープが弾ければなあ。僕はもっと元気が出るのに。
チョットかしてみて。
うん。
私のおじいちゃんは、ハープ作りの職人だから、治せるかもしれないわよ。
本当?
ちょっと待っててね。おじいちゃんに直してもらって、また持ってくるわ。
おお、メアリか。どうしたんじゃ。
これを見て、おじいちゃん。この壊れたハープを直せる?
どれどれ、おお、かなり手荒に扱われたもんじゃ。持ち主は、ハープにひどい仕打ちをしたもんじゃのう。
違うのおじいちゃん。マレドっていう青年のハーブで、憎たらしいイエウヴが壊したらしいの。
イエウヴはひどいことをするのう。ここも折れているし、そこも潰れているぞ。なんとか直せるとよいのじゃが。
ううう、このハープは・・・。まさか、これは。
どうしたの、おじいちゃん。
このハーブは、昔々ワシがある方に頼まれて作ったものじゃ。懐かしいのう。ということは、このハープを持っていた、マレドという青年は、もしや・・・
マレド、マレド。
あっ、メアリ。
ハープ直ったわよ。
えっ、本当。よかったぁ~。有難う。このハープは僕の命より大切なものなんだ。ありがとう。
あなたが、マレド様ですか。まさかとは思うんじゃが、マレド様はウェールズの王室にゆかりがある方じゃ、ないでしょうか?
どういうことですか?
このハープ、その昔、ウェールズ王のお妃さまに頼まれて、ワシが作ったハープなんじゃ。当時のウェールズ王、ハウェル王のお妃さま、エレナ様じゃ。ハープは家宝として、子供たちに受け継ぐ、と仰られていたんじゃ。
そして、そのハープを継承される方には特別な能力が必要なんじゃ。マレド様が継承されたとすると、その秘密をご存知なのではと思うんじゃが。
あなたが、ハープを造られた方だったんですね。僕のハープを直してくださり、ありがとうございます。母から受け継いだ、とても大切なハープなんです。
僕は、デハイバースを治めるオウァインの息子で、最弱戦士マレドって言われています。父はハウェル王の息子と聞いています。
僕がハープの秘密を知っているのか、その能力を持っているのかはわかりませんが、ハープを弾いてみます。
水は清く、緑深く、いのちにあふれる我がウェールズ
小鳥は歌い、動物は踊り、人は楽器を奏でる
生き物はみな、手を取り合い、心を通じ合い
暖かな食事を感謝と共にいただく
今日のことを話し、明日の希望を語り合い
暖かい場所でぐっすりと夢の中で微笑みあう
ゆたかな国ウェールズ、よろこびの国ウェールズ
僕らはみんな、ひとりはみんな
すべての生き物たちが、助けあって喜びあって、感謝しあって
生きていこう
うむむむ。素晴らしい音じゃ。素晴らしい演奏じゃ。心が和み、誰とも仲良くなり、平和がやってきたようになる。まさに、魔法のハープの音だ。マレドさま、あなたこそが、このハーブの継承者に間違いはない。
うっとりしちゃうわね。すごいわ。
へへへ。ぼくは、このハープで戦いをなくして、ウェールズの国々を平和にしたいんです。
マレド様こそ、わしらが待ち望んでいたお方じゃ。ワシらの国グウィネズも、マレド様の国デハイバースも、さらにウェールズ全体を平和にされるお人じゃ。
そうじゃ、まずはマレド様を牢から出れるようにしないと。
年老いたハープ職人と孫のメアリは、持ってきた道具で牢を壊し、ついにマレドは自由の身となったのである。
ありがとう。おじいさんに、メアリさん。御恩は一生忘れません。おじいさんが直してくれたハープで、きっとウェールズを平和な国にしたいと思います。よし、デハイバースに帰るぞ。
まって、私も連れて行って。
次回に続く
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最後まで読んでくださり有難うございました。
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