現実と物語のギャップ アーサー王と育った円卓の騎士 ケイ卿
こんにちは。ウェールズ歴史研究家、たなかあきらです。今回は、ウェールズ地方に多くの伝説を残している、アーサー王と育った円卓の騎士、ケイ卿についてお話いたします。
意地の悪い、物語のケイ卿
「円卓の騎士、ケイ卿ってアーサー王と一緒に育った兄弟ですよね」
「そうだよ。ケイ卿の父、エクトル卿にアーサー王は育てられたんだ」
「ケイ卿ってどんな人物だったんですか?」
「ケイ卿は、物語と現実が大きく違う人物と思うよ」
「二重人格?」
「いや、そうではないよ。物語とは、アーサー王物語のことで、その中に登場するケイ卿は二面性があると思うんだ」
「騎士としてのケイ卿はあまりぱっとはしないんだけど、巨人退治には活躍するんだよ。子供たちを襲う聖ミカエル山の巨人を殺したり、ウェールズの神話では巨人ウルナッハを倒したりするんだ。でも、ローマ帝国との戦争の中のソワソンの戦いか、モルドレッドの反乱に参加したグウィザウィグに殺されたようなんだ」
「ケイ卿は、巨人退治はすごいけど、それ以外はあんまり強くなかったんですね。ケイ卿のもう一つの面は何ですか?」
「ケイ卿は意外と、意地悪だったんだよ。馬上槍試合でケイ卿は自分の剣を忘れて、アーサーに取りに行かせたんだけど、アーサーは見つけることが出来ず、たまたま通りがかったときに岩に刺さった剣を引き抜いて、ケイ卿の所に持って行ったんだ。ケイ卿は、自分が剣を引き抜いたと主張し、王になろうとしたんだよな」
「それに、ケイ卿は、他の騎士を罵ったり、婦人を侮辱したり、失敗した冒険の話ばかりしたり、経験不足の騎士を危険な冒険に出かけさせたりしたんだ」
「なるほど。欲が強そうですし、意地も悪そうですね」
実在のケイ卿
「ケイ卿には実在人物がいるんだ。ウェールズ北部のケア・ガイ(Caer Gai)を治める統治者で、地名からケイの名前は来ているようだ。あだ名はCai Hir(のっぽのケイ)で、とても背が高かったようだよ。実在のノッポのケイにも2面性があるようだ。一つ目は、ブリテンの3人の魔法使いの騎士と呼ばれていたようだ」
「魔法使いですか? 落ちこぼれの魔法使いですか?」
「ノッポのケイにはこんな伝説があるんだ。ケイは9昼夜、水の中に潜り続けれる。9昼夜、寝ずに起きていることが出来る。ケイの剣で負った傷は、医者でも直すことが出来ない。ケイを喜ばせると、森の最も高い木と同じくらいの背丈になる。ケイが手に握ったものは、濡れていても体温ですぐにか空いてしまう。とても寒いとき、ケイは炎のように照らす燃料のように暖かさを放つ」
「これは、とっても頼もしい魔法使い騎士じゃないですか。アーサー王物語に出てくる、あまりぱっとしない騎士とは大違いですね」
「じゃ、もう一面のノッポのケイだ。ケイは晩年は聖人となり、グランストンベリー教会の司教に選ばれ、人々から崇められて暮らしたんだ」
「一時期、ケイが仕えた王の甥が反乱を起こしたとき、ケイは騎士に戻って仲裁を試みたけど、失敗に終わり、再び俗世間から離れてコーンウォールに移り住み、修道院で隠者として生活をしたんだ」
「聖人として暮らしたとは、アーサー王物語での意地悪なケイ卿とは大違いですね。こ聖人として、平穏に暮らしたんですね」
「いやっ、そうではないんだ。ケイが望んだような平和な日々ではなかったんだ。地元の王、Teudarが意地の悪い人物で、ケイをいつもイジメていたんだ。これにケイも対抗するようになったようだ」
「対抗って、ケイが王と喧嘩を始めたってことですか」
「Tuedarが狩りをしていた時に取った牡鹿を、ケイは隠したそうだ。この復讐に、Teudarはケイの雄牛を取り上げたそうだ。しかしその雄牛は、ケイが魔法を使って鹿を雄牛に変えたものだったそうだ」
「なるほど。実在人物のケイも、ちょっとは意地悪だったのかも知れませんね」
最後に
「実在人物のノッポのケイの父親は、Cynyr(カンニル)と言い、アーサー王物語の中では、アーサー王を育てたエクトル卿として登場しています。カンニルの妻、ノッポのケイの母親はアンナと言い、祖父はヴォーティガンとなっているよ」
「ヴォーティガンて、2017年版のキング・アーサーに登場した、悪役のヴォーティガンですか?」
「そう、正解。ケイの意地の悪い性格や、魔法が使える点は、ヴォーティガンの血の影響? 深く考えすぎかな。現実と物語が、混ざって来てしまったな」
最後まで読んでくださり有難うございました。
コメント