「トリスタン、って知っているかい?」
「円卓の騎士のトリスタンですか?」
※円卓の騎士一覧:
「そう、トリスタンは円卓の騎士の中で、勇敢で最強の騎士の一人と言われているのだが、「悲恋の主人公」であり、「伝説の伝説の男」なんだ」
「えっ、「悲恋の主人公」、「伝説の伝説」って、何ですか?」
トリスタンとイゾルデ物語
「まず「悲恋の主人公」から話そう。アーサー王物語にでてくるトリスタン卿は、現在のイギリスのコーンウォール地方にあったとされるリオネス国の、メリオダス王とイザベラ王妃の間に産まれた息子で、叔父であるマルク王に仕えて勇敢に戦っていたんだ」
「ある時、マルク王はアイルランド王と貢物を巡って争いになり、勇者トリスタンは、暴れ者で有名なアイルランドの王族モルトオと戦うんだ」
「トリスタンは勝てるんですか」
「トリスタンは猛者モルトオをやっつけるんだよ。トリスタンはアーサー王が開催した槍試合で、ガウェイン卿らを始めとする円卓の騎士の多くを打ち倒したりしているほどの勇者だよ。しかし受けた毒矢で傷つきトリスタンも倒れてしまうんだ。その時、トリスタンはアイルランド王女のイゾルデの介抱を受けて回復したんだ」
「その後、トリスタンはコーンウォールに帰国するが、アーサー王の宮廷でセグワリデス卿の妻との情事をやらかして、マルク王と仲が悪くなったんだ」
「この時代、そんな情事の話が多いですね。それでトリスタンはマルク王と仲直りできたんですか?」
「まずはこのため、トリスタンは再びアイルランドへ渡り、イゾルデをマルク王の妻として連れて帰る任務を言い渡されたんだ。これで仲直りできるはずだったんだけれど・・・」
「アイルランドからコーンウォールにイゾルデを連れて開る途中に、トリスタンとイゾルデは誤って愛の媚薬が入ったワインを飲んでしまい、二人は愛し合うようになってしまうんだ」
「ふむふむ、それでそれで」
「イゾルデはマルク王と結婚したものの、トリスタンとイゾルデは隠れて愛をはぐくむようになるんだ。しかし、マルク王の部下たちに気がつかれ、マルク王にも疑われるようになり、トリスタンとマルク王の関係は非常に悪化するんだ」
「それでトリスタン、イゾルデはどうするのですか?」
「コーンウォールに居ることが出来なくなったトリスタンは、決心してブリタニー国に渡るんだ(現在のフランス・ブルターニュ地方)」
「イゾルデと別れちゃうんですね」
「ブリタニーに渡ったトリスタンは、ホエル王の娘「白い手のイゾルデ」と結婚することになるんだ」
「同じ名前なんですね」
「トリスタンも元の恋人イゾルデのことが忘れられないんだろうな。結婚した理由も、名前が同じだったから、とも言われているんだ」
「しかし、トリスタンにも最後の時がやってくるんだ。トリスタンは戦いで瀕死の重傷を負ったんだ。この傷は元の恋人イゾルデしか治せないということになり、使者がアイトリスタンの危機を知ったイゾルデは駆けつけてきたんだが、ルランドに派遣されたんだ」
「白い手のイゾルデがいるけど・・・二人は再会できたんですか?」
「トリスタンは、帰りの船にイゾルデが乗っているなら白い帆を、乗っていないなら黒い帆を掲げて欲しいと、白い手のイゾルデに頼んだんだ。果たして、イゾルデは来るのか?というところだけど、実際はトリスタンの危機を知ったイゾルデは駆けつけてきたんだよ」
「しかし、白い手のイゾルデは、元の恋人イゾルデに強い嫉妬心を抱いたんだ。そして、トリスタンに「黒い帆です」と答えたんだ。その答えを聞いて絶望したトリスタンは、イゾルデが到着する前に絶命し、到着したイゾルデもトリスタンの死を前に嘆き悲しんで亡くなったんだ」
「飲んだ者は永遠に愛し合う、とされた媚薬。二人は同じ場所に埋葬され、その場所からは2本の木が生えてきたそうだ。その木は寄り添うように伸び、切っても切っても再び枝は寄り添うらしい」
「媚薬とはいえ愛し合う二人が現実の世界では一緒になれなかった、とても悲しい話ですね」
「この話は映画にもなっているので、是非みておくれ」
「またトリスタンとイズー物語は、シェイクスピアで有名な「ロミオとジュリエット」のモデルになっているともいわれているし、19世紀にリヒャルト・ワーグナーによって楽劇として作曲されているんだよ」
伝説の円卓の騎士、トリスタンは実在の人物か?
「そういえば最初に、トリスタンは「伝説の伝説」といってましたね」
「そう、そう。実在の人物かどうかは、このトリスタンとイゾルデ物語にもヒントが隠されているんだ」
「また、トリスタンとイゾルデ物語は、スコットランドの話がもとになっているらしい。スコットランドの話がイギリスのウェールズやコーンウォール地方に伝わり、さらにフランスに伝わり12世紀に叙事詩となったらしい。この叙事詩が物語となったのが、トリスタンとイゾルデ物語と言われているんだ」
「へえ~、そうなんですね」
「最初に、トリスタンはコーンウォール地方にあったとされるリオネス国出身といったけど、リオネス国は現実にはなくて、実際はトリスタンはドゥムノニアと呼ばれた国の王で、ドゥムノニアの中のシリ島(Isles of Scilly)と呼ばれる場所なんだ」
とても小さな島。下がシリ島付近の拡大。
「マルク王はクノモール(Cunomor)という名前で、トリスタンの叔父というより父だったようだ。コーンウォールにあるドーレ城(Dore)の石にも、クノモール王の息子トリスタンここに眠る、と刻まれているそうだよ」
「なんと、そんな隠された事実があったとは・・・」
「さらにまだ続くよ」
「まだ、トリスタンの隠された話はあるのですか?」
「トリスタンは伝説の伝説といっただろう? トリスタンとは言ったけど、トリスタン(Trystan)ではなく、ドラスタン(Drustan)と書かれているそうだ。ドラスタンという名前はピクト人(当時スコットランドに住んでいた人々)の名前なんだ。これは、さっき、トリスタンとイゾルデ物語は、スコットランドの話が発祥と言ったことに一致しているんだよ」
「つまりは、スコットランドに住んでいたドラスタンがウェールズやコーンウォールにやってきて伝説になったのか、スコットランドのドラスタンの伝説がコーンウォールに伝わって、当時のコーンウォールの王たちをモデルにして変形したのか、かなと思うね」
「トリスタンはスコットランド出身? それは壮大なストーリーになってきますね」
「そこで、現在のスコットランドのエジンバラより北にあった、ピクトランドと呼ばれる国にルーツはないだろうかと、ドラスタンという人物がいるか調べてみたんだ」
※北の、矢印付近の国です
「ワタルさん、そんなことまで調べたんですか!」
「任せてくれ。アーサー王が活躍した5世紀~6世紀で調べてみたところ、ドラストと呼ばれる王が5人いることが分かったんだ。ひょっとするとトリスタンの原形はこのうちのいずれかの王かも知れないね」
※調査中
・Drust mac Erp:ヴォーティガンがもたらしたアングロサクソン兵と戦った
・Drust Guorthinmoc:アイルランドからの侵略と戦った
・Drust mac Udrost&Drust mac Gyrom:二人でスコットランドを分け合った
・Drust mac Munaith:疫病の犠牲になった
「トリスタン一人調べても、とてもロマンを感じますね」
「ええ、トリスタンが飲んだ媚薬のように、「愛」も「ロマン」も永遠ですから」
参考:EBK: King Tristram of Lyonesse
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